横浜市における宅地開発要綱制定と変化の経緯分析・田口論文の最終発表会

9月15日午後6時より横浜市民活動支援センター会議室で、会員の田口俊夫氏より『横浜市における宅地開発要綱制定と変化の経緯分析-革新首長飛鳥田一雄と都市プランナー田村明の働きを通じて』と題する研究論文の発表がありました。参加者は11名で、長時間に亘る研究発表と熱い意見交換会が開かれました。

 

宅開要綱田口論文の最終発表会となりました。前回の発表後に新たな発見があり、それを付け加えて、論文全体を再構成しました。新たな発見は二つで、一つは米国でも開発負担制度が自治体により制定され今も運用されていることです。「自由主義の国」米国で、1980年代以降に開発負担に関する議論が徐々に深まり、それまでの自治体による自主制度から州政府の支援を受けた公的制度化(「開発負担州授権法」の制定)に移行していきます。自由主義の国でも、既存の地域社会に新たな負荷(公共公益施設の用地取得や施設整備等)を与える開発行為は、その原因者として負担をすることが義務づけられます。米国では「当然のこと」のようです。

 

もう一つは、江東区におけるマンション指導要綱の存在です。国の指導で全国の宅開要綱がほぼ姿を消そうとしていた2002年になって、マンション規制の指導要綱を江東区が新たに制定しました。東京都の主要事業である臨海副都心を区内にもつ江東区では、超高層マンションが林立し始めていました。学校が圧倒的に足らない状況が出てきました。密集市街地の江東区には学校用地がありません。資金もない中で、江東区は苦肉の策として、マンション規制を打ち出し、学校対策としてマンション1戸当たり125万円の「公共施設整備協力金」の徴収を始めました。区長が変わった時に、一時期要綱の存続を躊躇したようですが、代替手段がありません。それゆえ、要綱は存続しています。国や都からの要綱廃止の指導もないようです。

 

田村明がつくった宅開要綱は、国からの支援もない中で制定され、逆にその後継続的に国から要綱廃止圧力がありました。結果的に、少子高齢化社会になることで開発圧力が収まる中で廃止されていきます。ただし、横浜市では地域的にまだ開発圧力があり、小学校の増設問題があります。もはや開発負担に頼ることができず、市の単独費で対応しているようです。日本という国は不思議な国です。40年間近く、自治体の自主制度が存続し、国はなんらの支援に向けた積極的な関与をせず、廃止圧力をかけ続けた。米国では、自治体の窮状を救うために州政府が動き立法的措置を整えた。いま一方、江東区の事例は、かつて国が嫌った自治体による自主制度なのだが、「見てみぬ振りをする」日本的文化で済まされている。

 

 

田村明には、地域社会と市民ニーズを読む先見性と、緻密な論理と戦略性に裏打ちされた制度設計、そして制度を運用する人材育成の凄さがある。それらを再び学び直したいと願っている。当日、参加者からの質問で幾つかの気づきを得ました、有難うございます。当該論文が僅かながらも参考資料となれば、幸いです。研究をご支援いただいた方々にお礼を申し上げます。(文責:田口俊夫)

 

 

 

当日発表メモ
宅開要綱9月15日プレゼメモ.pdf
PDFファイル 171.7 KB
20170916最終版宅開要綱田口論文.pdf
PDFファイル 2.2 MB